近年「パーソナライズ」という言葉を目にする機会が多くなりましたが「具体的にどのような意味・仕組みなのかよく分からない…」という人も多いのではないでしょうか?当記事では「パーソナライズ」の言葉の意味や重要性、活用のメリット、施策例や注意点について詳しくご紹介します。
目次
パーソナライズとは
「パーソナライズ(personalize)」という言葉の意味は「個人的なものにすること。個人に応じて変更したり作り変えたりすること」(出典:weblio)です。
そしてマーケティングにおける「パーソナライズ」とは、個人の属性や行動履歴・興味関心に基づいて、最適なコンテンツやサービスを提供する仕組みを指します。「パーソナライズ」は広告・Webサイト・DMなど、さまざまなシーンで活用されています。
従来のマスマーケティングは、テレビCMのように、不特定多数の人に対して画一的な情報を発信する仕組みです。企業側から情報を一方的に発信するだけなので、視聴者全員が必要としている情報だとは限りません。発信される情報に興味がない視聴者もいることでしょう。
一方、パーソナライズされた情報であれば、ユーザーが興味を持つ可能性が高まり、ネクストアクションへとつながりやすくなります。つまり、パーソナライズは従来のマスマーケティングより、ユーザーに効率良く情報を提供できる手段として、注目を集めているのです。
また「パーソナライズ」はオフライン・オンラインのチャネルを問わず、個々のニーズに合わせて適切なものを提供することで、顧客との関係がより強固なものとなり、「顧客体験」が向上する効果もあります。
カスタマイズとの違い
パーソナライズと似ている「カスタマイズ」という言葉があります。ユーザーの嗜好に合わせてコンテンツやサービスを利用する点は共通していますが、誰が主体となって、ユーザーの嗜好に合わせようとするのか、が異なります。
●パーソナライズ
企業がユーザーへ提供するコンテンツ・サービスを、一人ひとりに合ったものに最適化すること。ユーザーがニーズを把握していない場合に有効。
ECサイトのレコメンド機能
:購入履歴や閲覧履歴などを基に「こちらの商品もおすすめ」や「この商品を見た人はこちらの商品もチェック」などと関連商品を提示し、新しい商品への興味を喚起します。
●カスタマイズ
ユーザーが自分の好みに合うよう、自分自身で変更・追加を加えて最適化すること。ユーザーが自身でニーズを明確に把握している場合に有効。
コーヒーショップでのドリンクオーダー
:メニューに記載されている内容をベースとして、シロップ・クリームなどの追加や、ミルクを豆乳に変更するなどをオーダーし「自分好みのドリンク」を作ります。
マーケティングにおいてパーソナライズが重要となった背景
マーケティングにおいてパーソナライズが重要となった背景には、下記の2点が考えられます。
- 消費者ニーズの多様化
- 利便性への期待
それぞれについて詳しく解説します。
消費者ニーズ・消費行動の多様化
インターネットやスマートフォンの普及により、消費者は自分で情報を取りに行く時代になりました。総務省のデータによると、国内のブロードバンド契約者の総トラフィックは、2018年11月~2019年11月の1年間で約15%増加していることが分かります。
引用:総務省「情報通信白書 令和2年度」図表3-1-1-1 我が国のブロードバンド契約者の総トラヒック
インターネット上に情報が溢れ、スマホを使った消費行動が当たり前となった現代においては、かつてのように同じ製品を大量に生産し、テレビCMや新聞広告などの画一的なマスマーケティングを行うだけでは、モノが売れない時代となっています。
多様化する消費者ニーズや消費行動に対応するために、パーソナライズが重視されるようになったと言えるでしょう。
利便性への期待
便利な時代になった一方で、「メディア定点調査2019(博報堂DYメディアパートナーズ )」によると、メディアやインターネットの情報について「世の中の情報量は多すぎる」と感じる人は、51.5%を占めていると分かります。
膨大な情報の中から「自分に関連する有益な情報を、より効率的に受け取りたい」と思っている顧客にとっては、属性や嗜好に基づいて情報が提供される「パーソナライズ」への期待や評価は高いと言えるでしょう。
パーソナライズにおいて活用する情報例
パーソナライズにおいては、さまざまなユーザー情報が活用されています。活用されている情報の例は以下の通りです。
- 性別・年齢・配偶者の有無(BtoCの場合)
- 企業規模・業界・役職(BtoBの場合)
- ステータス(既存顧客か見込み客かなど)
- 位置情報
- 利用しているデバイス・ブラウザ
- 検索履歴・購入履歴
- 閲覧履歴(読んだコンテンツ、視聴した動画など)
- サイト訪問回数・滞在時間・時間帯
- 流入元(検索、メール、SNS、有料広告、参照元サイトなど)
- マウス操作
- メール開封数とクリック数
- プッシュ通知の消去数またはクリックスルー数
- 生涯顧客価値(LTV)
パーソナライズの施策例
上記の情報を活用したパーソナライズの施策例として、以下9点をご紹介します。
- パーソナライズド広告
- パーソナライズド検索
- メールのパーソナライズ化
- レコメンド機能
- コンテンツ配信
- SNSのパーソナライズ表示
- パーソナライズド動画
- パーソナライズDM
それぞれについて詳しく解説していきます。
パーソナライズド広告
「パーソナライズド広告」とは、ユーザーが過去に検索したキーワードや閲覧履歴、位置情報に基づき、一人ひとりに合わせて表示される広告を指します。
Yahoo! JAPANのトップページに表示されている広告や、Googleのアドセンス広告などがパーソナライズド広告にあたります。一方、検索画面の上部に表示されるリスティング広告は、パーソナライズド広告ではありません。
広告を出稿する企業にとって「パーソナライズド広告」は、見込み客にリーチしやすい点がメリットです。ユーザーにとっては、興味のある商品・サービスの新しい情報を得られるというメリットがあります。
関連記事:パーソナライズド広告とは?仕組みやメリット・デメリットを事例とともに解説
パーソナライズド検索
Googleでは「パーソナライズド検索」が採用されており、ユーザーの検索履歴や位置情報、SNSのログイン履歴などに基づいて、ユーザーごとに検索結果が最適化されています。
例えば、「歯医者」と検索した場合、「ユーザーの現在地や住んでいる場所に近い歯医者」が検索結果の上位に表示されます。街中を散策しながらお店を探すケースなどでは、地域名を入れずに検索しても近くのお店を見つけられるため、ユーザーにとって大変便利な機能です。
Webサイトのパーソナライズ化
Webサイトのパーソナライズ化とは、ユーザー毎に表示するページを変化させる施策です。例えば「初回訪問」「非会員」「利用実績のない会員」「利用実績のある会員」など、会員のステータスに合わせてバナーやトップページを出し分けるなど、Webサイトを通じた情報発信や接客の最適化を実現します。
コンバージョン率の向上につながるととともに、顧客体験の向上にもつながります。
メールのパーソナライズ化
メールのパーソナライズ化とは、顧客に合わせてメールの内容やタイミングを変える施策です。顧客の属性や地域、購入履歴などに応じて、メールのコンテンツや送信するタイミングを調整し、最適化を図ります。
例えば、初めてメールを送信する顧客にはサービスの利用を促す内容を送信し、利用期限が近い顧客には更新手続きを促す内容にするといった手法です。
例えば、以下のような手法があります。
- 過去に購入いただいた商品に関連した、おすすめ商品情報を送る
- メールの宛名に顧客の名前を差し込む
- 誕生日にメッセージを添えて送る
- 購入履歴が〇回以上の顧客にはVIP限定キャンペーンのご案内を送り、一度の購入していない顧客には初回割引クーポンを送る
パーソナライズメールのメリットとして、メール開封率やコンバージョン率の向上が期待できます。
レコメンド機能
「レコメンド機能」とは、登録情報や購入履歴、利用履歴、評価などを元にして、同じような趣向を持つユーザーが選んでいるコンテンツや、似たようなジャンルのコンテンツを「おすすめ」として表示させる仕組みです。
amazon
ECサイトはもちろんのこと、ニュースサイトや、Netflixのような「動画配信プラットフォーム」でも利用されています。検索の簡略化ができるため、ユーザーの離脱防止やユーザビリティの向上が期待できます。
コンテンツ配信
コンテンツ配信のパーソナライズ化とは、ユーザーが選択した「興味のあるジャンル」や視聴履歴・投稿履歴を元に、最適化したコンテンツを表示する仕組みです。
例えば、音楽ストリーミングサービスのSpotifyの場合は、ユーザーが日々聴いている曲や、音楽の好みが似ている他のユーザーが聴いている曲をAIが分析し、ユーザーの好みに合わせた音楽プレイリストを生成してくれます(Discover Weekly)。
またグノシーやNewspicksのような「キュレーションメディア」においても、パーソナライズが実装されています。ユーザー自身が「興味のあるジャンル」を選択することで、興味関心に近しいものから配信され、ユーザーが求めているものに出会いやすいというメリットがあります。
SNSのパーソナライズ表示
SNSのパーソナライズ表示とは、ユーザーの過去の行動(「いいね!」やコメントなど)や投稿者との関係性に応じて、関心を持ちそうな投稿を優先的に表示する仕組みです。
ユーザーがどのようなジャンルに興味を持っているのかについては、「いいね」やコメントを誰に対して送ったのかなどで判断されます。例えば、資産運用の話題に頻繁に反応するユーザーには、資産運用に関する投稿や広告が優先的に表示されます。
パーソナライズド動画
パーソナライズド動画とは、視聴する個人毎に最適化された動画です。
一般的な動画では、誰が視聴しても同じ内容です。一方、パーソナライズド動画は、ユーザーの属性や興味関心を元に最適化されたストーリーが展開されます。パーソナライズド動画は多くの保険会社が導入しており、個別の契約に合わせて内容をわかりやすく伝えたり、動画の中に名前を挿入したりと、顧客とのコミュニケーションとして活用されています。
引用:ManulifeJapan YouTubeチャンネル
動画はテキストや画像よりも短時間で多くの情報を伝えられるメリットがあり、パーソナライズド化した内容になっていることで、さらに理解が深まります。
パーソナライズド動画については、下記の記事で詳しく解説しています。
関連記事:パーソナライズド動画とは?6社の活用事例・効果・おすすめツールを解説!
パーソナライズDM
パーソナライズDMとは、顧客一人ひとりに合わせてDM(ダイレクトメール)の内容やタイミングを最適化する施策です。顧客全員に同じタイミングで同じDMを送るのではなく、属性や行動履歴等に基づき、個々に合わせた最適な内容・タイミングのDMを送ります。
紙のDMは、テンプレートの一部を変えて印刷できるバリアブル印刷を用いることで、簡単にパーソナライズできます。例えば、宛名の部分を「お客様各位」ではなく「〇〇様」と個人名を差し込むことで、目に留まりやすくなります。
パーソナライズDMは「直接顧客の手元に届き、目に留まりやすい」というDMの強みに個別のデジタルデータを掛けあわせ、より顧客の興味関心を喚起できる点がメリットです。
関連記事:パーソナライズDMとは?メリットや実施方法、成功のポイントを解説
パーソナライズのメリット
パーソナライズマーケティングのメリットは、以下の3つです。
- 潜在顧客、見込み客にアプローチできる
- コンバージョン率の改善、収益の増加
- 顧客体験(CX)の向上
それぞれについて詳しく解説していきます。
潜在顧客、見込み客にアプローチできる
パーソナライズのメリットは、潜在顧客や見込み客にアプローチできることです。顧客の多くは、自分自身のニーズに気付いていません。顧客のデータを元にアプローチするパーソナライズを活用することで、顧客ニーズの掘り起こしが可能になります。
潜在顧客や見込み客にアプローチすることで、自社の製品やサービスに対する認知拡大にも貢献できるでしょう。
コンバージョン率の向上、収益の増加
短期的な売上につながる点も、パーソナライズのメリットと言えるでしょう。例えば、Webサイトにおいては、パーソナライズにより以下のような効果が期待できます。
- コンバージョン率の向上
- 直帰率の減少
- メールの開封率増加
- ページに対するエンゲージメントの向上
- 見込み顧客の獲得
上記の指標がそれぞれ改善されることで、売上増加につながります。
顧客体験(CX)の向上
上記のような短期的なメリットだけではなく、パーソナライズ化された情報を提供し続けることで、顧客の特別感が高まり顧客体験が向上する点もメリットです。
顧客満足度が高まれば、さらに上位となる商品・サービスの購入を提案する「アップセル」や関連商品・サービスの購入を提案する「クロスセル」が受け入れられやすくなったり、購入頻度が高まったり、長期にわたって契約・利用してもらえるなど、LTV(ライフタイムバリュー))の最大化にもつながります。
パーソナライズの注意点
パーソナライズの注意点は以下の4点です。
- 憶測で進めず、データによる効果検証を徹底する
- 情報をアップデートし続ける
- 今後は「1st Party Data」が中心となる
- ユーザーにとって価値のあるコンテンツ・サービスを提供する
それぞれについて解説していきます。
憶測で進めず、データによる効果検証を徹底する
パーソナライズの注意点は、憶測で進めないことです。パーソナライズを憶測で進めてしまうと、十分な効果が期待できません。定期的にデータを基に分析し、必ず効果検証を行いましょう。仮説が正しいか間違っているか判断できるほど十分なデータが得られるまで検証を続け、データを元に施策効果を判断するようにしましょう。
情報をアップデートし続ける
パーソナライズの注意点は、情報をアップデートし続けることです。世間の流行やユーザーの嗜好が変化した場合でも、パーソナライズ設定を修正できるような運用にしておくことが大切です。例えば、「引越先によって天気予報の設定場所を変える」「子どもが産まれた後に育児のニュースカテゴリーも追加する」など、ユーザー自身も柔軟に設定を変更できるとよいでしょう。
今後は「1st Party Data 」が中心となる
パーソナライズにおいて「顧客データ」の活用は不可欠です。一方、Googleがwebサイト上の未知の訪問者のトラッキングや、顧客体験のパーソナライズ、広告のターゲット選定などに利用されてきたChromeの3rd Party Cookieを、2023年後半に終了すると発表しました。
今後、企業は自社で取得した「1st Party Data(氏名、メールアドレス、電話番号、購買・閲覧履歴など)」を用いて、パーソナライズ施策を進める必要があります。CRM(顧客管理システム)やMA(マーケティングオートメーション)を中心に1stParty Dataの収集・管理を行う準備を進めていきましょう。
ユーザーにとって価値のあるコンテンツ・サービスを提供する
パーソナライズの目的は「ユーザーにとって価値のあるコンテンツ・サービスを提供すること」です。最終的には売上や顧客増加が目的だとしても、ユーザーにとって価値のある情報や体験を提供できなければ、その目的は成し遂げられません。そのためには、顧客理解が重要になります。顧客理解が不十分な場合は、カスタマージャーニーマップやペルソナを作るなどして、顧客体験を整理するのも有効です。
まとめ
インターネットやスマホなどの普及で消費行動が多様化しており、パーソナライズの重要性が高まっています。パーソナライズの活用により、顧客の特性や興味関心にあわせた情報の提供や効率的なマーケティングが実現でき、結果として売上や顧客体験の向上が期待できます。さまざまなチャネルで活用できますので、ぜひ検討してみてください。
執筆者
黒谷 純子
MIL株式会社 マーケティング
大学卒業後、編集プロダクション等を経て、人材サービス企業のマーケティング職に従事。2021年3月よりMIL株式会社に入社し、現在は自社サイトやMILblogの企画・ディレクション・執筆等を担当している。
Twitter : https://twitter.com/MIL29292841