LTVとは「Life Time Value」の略で、ビジネスでマーケティング施策を検討する際に使われる言葉であり、日本語では「顧客生涯価値」と訳されます。1人の顧客が、ある企業の商品に出会って購入し、その後も何度か購入、そして購入しなくなるまでの間に、どれだけ企業に価値をもたらしてくれるのか、を表します。
この記事では、この言葉が注目される背景やLTVの計算式、LTVの活用法などについて、わかりやすく解説します。ぜひご覧ください。
目次
LTV(ライフタイムバリュー)とは?
まず、LTVとは何かについてご説明します。
LTVの意味
LTVの定義としては、一人の顧客が、ある企業やお店の商品・サービスを購入し始めてから終わるまでの期間(顧客ライフサイクル)に、どれほどの利益を企業やお店にもたらしてくれるのかを、計算式で算出するものです。企業対企業の取引でいえば、一社の取引先が、取引を始めてから終わるまでの期間に自社にもたらしてくれる利益、ということになります。
皆さんも、消費者として、商品やサービスを愛用している企業やお店がパッと思い浮かぶのではないでしょうか。例えば、保険や投資、銀行口座などを取り扱う金融機関、携帯電話会社などは長いお付き合いをするサービスの代表になります。他にも近所のスーパーマーケットや美容室、お気に入りのアパレルブランド、趣味のグッズをいつも購入するWebサイトなど、考えてみると多くの企業やお店の名前を挙げることができそうです。
一人の顧客や取引先が何度も取引をしてくれると、新規顧客の集客コストをかけずに済みます。リピート利用してもらうことを想定したマーケティング施策を検討するために、このLTVの数値が活用できます。
CLV・CLTVとの違い
同じ意味を表す言葉として「CLV」と「CLTV」があります。これらはCustomer Lifetime Valueの略で、「顧客である期間」という意味を明確にするためにCustomerを入れている言葉ですが、同じ意味です。
LTVが注目されている3つの背景
LTVが注目されている背景には、以下3つの背景があります。
- 成熟した市場では、新規顧客の獲得が困難
- 「モノ消費」から「コト消費」への変化
- One to Oneマーケティングへの移行
それぞれについて、詳しくご紹介します。
背景1:成熟した市場では、新規顧客の獲得が困難
1つ目の背景には、成熟した市場では、新規顧客の獲得が困難になっている状況が挙げられます。
戦後から考えると、農業や漁業などの第一次産業、工業や建設業などの第二次産業が主流だった時期を経て、サービス業や小売業などの第三次産業が主流となった現在では、市場が成熟し、より便利で快適な商品がきめ細やかに提供されています。
個人が所有するモノの数も多く、一つのモノに複数の選択肢があるような豊かな状況の一方で、エコ意識の高まりから、環境に配慮し愛着のあるモノを修理しながら長く使う消費者もいます。需要を喚起し新しい商品を買ってもらうことは、容易ではなくなってきました。
新規顧客を獲得するコストCAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得費用)は、既存顧客の維持によって同じ利益を得る場合と比べると5倍もかかるといわれ、マーケティング用語では「1:5の法則」と呼ばれているほどです。
既存顧客の維持に注力し、リピート率の向上や離脱率の低下をはかるために、今、LTVが注目されているのです。
背景2:「モノ消費」から「コト消費」へ
2つ目の背景は、「モノ消費」から「コト消費」へ変化している状況です。
これまでのビジネスでは「モノの消費をうながし、モノを売り切る」ことを目標にしてきました。いかに多くの顧客をつかみ商品の販売数を増やすか、顧客一人当たりの購入単価を上げるかに重点をおいた、いわばワンタイムバリューの最大化が主流でした。
しかし、モノがあふれた現在では、珍しい体験や感動するような体験にお金を払う「コト消費」に価値を感じる顧客が増えています。モノを所有しなくてもサービスのメリットを受けられるサブスクリプションにも価値を見出すなど、顧客の志向が「モノ消費」から「コト消費」へ変化しつつあります。
この市場の変化を感じ取った企業が、新たな「コト消費」のマーケティング施策の検討材料として、LTVを活用するようになってきています。
One to Oneマーケティングへの移行
3つ目の背景として、One to Oneマーケティングへ移行している状況があります。
インターネット環境やスマートフォンなどの普及、各企業のDX推進により、顧客のデータを集めて分析し、商品・サービスの改善に役立てる手法やツールが発展しつつあります。これらのツールは、顧客の属性や行動履歴などのデータを収集して分析する、データドリブンマーケティングやCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)を実現可能としました。
不特定多数に向けたマスマーケティングから、より顧客の個別の嗜好にマッチする提案を行うOne to Oneマーケティングへと移行するにあたり、ツールにより算出されたLTVが重視されるようになっています。
LTVの計算方法
それでは次に、LTVの計算方法についてご紹介します。一般的な計算方法は以下の通りです。
「購入単価×購買頻度×継続期間」で求める計算方法や、顧客の獲得・維持コストを考慮しない方法、粗利率ではなく売上や収益率を用いる方法など、さまざまな計算方法があります。LTV算出に必要な要素が、ビジネスモデルによって異なるため、このように計算方法も異なります。
ビジネス別・LTVの計算例
以下では、ECサイトでのビジネス、サブスクリプションのビジネス、スポットビジネスの3つについて、それぞれの算出事例をご紹介します。
具体例①ECビジネスの場合
独自のウェブサイトで商品・サービスの販売を行うECビジネスでは、次のように算出します。
平均顧客単価(1回あたりの購入単価):10,000円
平均粗利率:20%
平均購買頻度:年4回
平均取引期間:2年
顧客の獲得・維持コスト:10,000円
LTV=10,000円×20%×4回×2年-10,000円=6,000円
具体例②サブスクリプションモデルの場合
一定期間に利用できる権利に対して、定額の料金を継続的に支払うサブスクリプションモデルでは、次のように算出します。
・顧客単価:100,000円
・粗利率:50%
・購買頻度:年12回
・取引期間:3年
・顧客の獲得・維持コスト:500,000円
LTV=100,000円×50%×12回×3年-500,000円=1,800,000円
具体例③スポットビジネスの場合
サイトやバナーの制作、研修などのように、1回ずつ商品・サービスの発注をするスポットビジネスでは、次のように算出します。
顧客単価:500,000円
粗利率:60%
購買頻度:年2回
取引期間:5年
獲得・維持コスト:300,000円
LTV=500,000円×60%×2回×5年-300,000円=2,700,000円
LTVの活用場面
マーケティング施策検討においてLTVを活用する場面として、主に以下の3つがあります。
- 適切な上限CPAを設定するとき
- CACとの比率を見て収益性を判断するとき
- 各施策の評価をしたり、戦略を策定したりするとき
それぞれについて、具体的に解説します。
適切な上限CPAの設定
CPA(Cost Per AcquisitionまたはAction:顧客獲得単価)とは、広告宣伝を行った際に、成果に対して費用がどのくらいかかったかを表す数値のことです。成果とは、例えば顧客を一人獲得、または資料請求や申し込みを1件獲得したなど、広告が目標とする成果を指します。
例えば、10万円のWeb広告費をかけて、20件の注文をとったら、
100,000円÷20件=5,000円
CPAは5,000円と算出できます。
「上限CPA」とは、このCPAを許容できる上限の金額を表します。「平均購買単価×粗利率」で算出できますが、このままでは一回限りの購入をベースとした数値となりますので、2回以上のリピートを意識し、LTVを加味して算出します。
先ほどのビジネスモデル別のLTV算出で使用した例で説明すると、以下のようになります。
平均顧客単価(1回あたりの購入単価):10,000円
平均粗利率:20%
平均購買頻度:年4回
平均取引期間:2年
・LTVを加味しない場合
上限CPA=10,000円×20%=2,000円
・LTVを加味した場合
上限CPA=10,000円×20%×4回×2年=16,000円
このような結果となり、16,000円まで広告宣伝を行える、ということになります。広告の出稿先を増やす、新しいターゲット層を検討するなど、マーケティング施策を柔軟に行えます。
CACとの比率を見て収益性を判断
CACとは、新規顧客獲得の成果に対して、費用がどのくらいかかったかを表す数値のことです。CPAと似ていますが、CPAは広告費用のみを指し、CACは営業のための人件費も含めた総費用で算出するものです。
例えば、120万円の費用をかけて、2件の受注があれば、
1,200,000円/2件=600,000円
CACは600,000円と算出できます。
ちなみに、サブスクリプションモデルのビジネスでは、利用期間に応じて利益が上がっていくため、LTVとCACの数値を用いて、ユニットエコノミクス(ビジネスの最小単位あたりの収益性)を算出し、獲得のための総費用が妥当であるかの判断に用いることができます。
先ほどのビジネスモデル別のLTV算出で使用した例で説明すると、以下のようになります。
LTV=100,000円×50%×12回×3年-500,000円=1,800,000円
これに対し、CACが600,000円であれば、
ユニットエコノミクス=1,800,000円÷600,000円=3
ユニットエコノミクスは、一般的には3以上であれば収益性のあるビジネスとみなしますので、この例は収益性ありと判断できます。
LTVとCACの比率について詳しくは、以下記事でご紹介しています。
関連記事:LTVとCACの健全な比率とは?2つのビジネス指標の関係性と計算方法をわかりやすく解説
各施策の評価、戦略策定
LTVは、マーケティング施策を評価し、次の戦略を策定する際に活用できます。
顧客を、例えば年齢や性別、購入頻度や購入商品、ライフスタイルなどの属性で分けます。こうして分類した顧客セグメントごとにLTVを算出すれば、現在行っているマーケティング施策の分析や評価、比較が定量的に行えるようになります。
その結果、どのセグメントを重視するか、1つのセグメントにリソースを集中させるか複数のセグメントにリソースを分配するか、といった戦略を立てやすくなります。
LTV最大化の鍵は「顧客ロイヤルティ」
それでは、LTVの数値を高め、最大化するには、何をすればよいのでしょうか。
ポイントは、LTVの計算式における、一つひとつの要素を見直していくことです
- 顧客単価を上げる
- 粗利率を上げる
- 購買頻度を上げる
- 取引期間を延ばす(継続率を上げる)
- 顧客の獲得・維持コストを下げる
例えば、購買頻度を上げる施策として考えられるのは、一度サービスを受けた顧客が効果や満足を感じているうちにフォローする、しばらく来店していない顧客に役立つ情報を届ける、などの方法があります。金融商品であれば、顧客の世帯と密接な関係を維持すべく、ライフイベントを把握してその都度提案を行う、年に1度の誕生日には連絡する、などが考えられます。
5つの要素の改善が目指すところは、顧客にファンになってもらうことです。「好きでも嫌いでもない」存在から、「〇〇商品といえばこの会社」と忘れない存在になってもらうのです。1回の売上を作ることだけでなく、会社のファンになり、ロイヤルティ(忠誠心、愛着や信頼)を高めてもらうことを意識するとよいでしょう。LTVの最大化について詳しくは、以下の記事でもご紹介しています。
関連記事:LTV(ライフタイムバリュー)を最大化するには?5つの方法とメリットをわかりやすく解説
まとめ
今回は、LTV(ライフタイムバリュー:顧客生涯価値)について、注目される背景や計算式、その活用法、LTVを最大化するヒントをご紹介しました。
モノが満ちて市場が成熟し、モノ消費ではなく体験などのコト消費に価値を感じる人が増え、新規顧客を数多く発掘するよりも一人ひとりの顧客の満足度を高めることが重要になってきました。
そのためには、顧客が満足して何度もリピート利用してくれるよう、LTVの数値を算出し、その数値をマーケティング施策に活かしましょう。そしてLTVを最大化するには、顧客にファンになってもらい、顧客ロイヤルティを高めていくことが鍵となります。今回ご紹介した計算方法を参考にしていただき、まずはLTVを月に1回などまめに算出し、顧客の動向をつかんでみてください。
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執筆者
黒谷 純子
MIL株式会社 マーケティング
大学卒業後、編集プロダクション等を経て、人材サービス企業のマーケティング職に従事。2021年3月よりMIL株式会社に入社し、現在は自社サイトやMILblogの企画・ディレクション・執筆等を担当している。
Twitter : https://twitter.com/MIL29292841