顧客の消費行動が複雑化し、商品やサービスに関する情報もあふれている現代においては、商品やサービス自体の良さだけでなく「顧客体験」も顧客に選ばれるための重要な要素となっています。
当記事では、まず顧客体験とは何かを説明した後、顧客体験が重要視される理由や、顧客体験を測定する指標やポイント、顧客体験向上に必要なステップをわかりやすく解説していきます。改めて「顧客体験」について考え、改善のためのヒントにしていただければ幸いです。
顧客体験(CX)とは
顧客体験(カスタマーエクスペリエンス=CX)とは、顧客が商品やサービスに興味を持ち、検討して購入・契約し、購入後のアフターサービスを受けるまで、一連の「顧客接点」での体験を通して、顧客が感じる「機能的価値(商品・サービスの性能や機能)」と「情緒的価値(喜びや満足感)」を表す概念です。
1. Instagramでその化粧品の存在を知り、興味を持つ
2. Webサイトで金額や機能を調べる
3. 口コミサイトで実際の使用感や評判などを調べる
4. 実際の店舗に商品を見に行き、店員から説明を受ける
5. 検討し、数日後にWebサイトから購入(Web会員になる)
6. 商品が届き、実際に使用してみる
7. 数ヶ月後、Web会員限定のキャンペーンメールが届く
それぞれの接点と一連の体験の中で、顧客がどのような点に満足・不満足を抱いたのかを表します。
「顧客満足(CS)」との違い
顧客体験と似ている言葉として「顧客満足(CS=Customer Satisfaction)」があります。「顧客満足(CS)の向上」は顧客から届く声を拾い上げ、担当部門や製品ごとに課題を解決し、顧客の期待に応えることを指します。
一方、「顧客体験(CX)の向上」は、顧客に感動を与えロイヤルカスタマー化していくことが目的です。顧客の期待値に応えること(顧客満足)に加えて、期待値以上の感動を与えるために、企業が自発的に取り組みます。顧客体験は「商品やサービスの購入前接点も含めて、顧客が評価する」という点が顧客満足との大きな違いです。
「顧客体験」が重要視される理由
今、顧客体験が重要視される理由として、主に5点があります。
- 収益との相関性
- 他社との差別化
- 多様化した顧客接点の最適化
- データ活用によるサービスのパーソナライズ化
- 顧客による情報発信力の向上
それぞれについて、詳しくご説明します。
1.収益との相関性
1点目は、収益との相関性が見られることです。Zendeskが2022年に発表した『カスタマーエクスペリエンス(CX)に関する実態調査レポート』によれば、10人に6人が、満足度の高い顧客体験をすると「また商品を購入したくなる」という調査結果があります。企業・ブランドのファンを増やすことで、顧客生涯価値(LTV)の最大化につながると期待できます。
顧客体験の向上と収益の相関性を示す調査結果も増えており、多くの企業がマーケティング活動の軸として「顧客体験向上」に力を入れ始めています。
2.他社との差別化
2つ目の理由は、他社との差別化です。
市場が成熟して似たような商品が増え、スペックでの差別化は難しい時代になりました。自社の商品やサービスを継続的に選んでもらうためには、質や価格だけでなく「期待を上回る体験」を提供することで差別化し、顧客をファン化する必要が出てきました。
3.多様化した顧客接点の最適化
3つ目の理由は、多様化した顧客接点の最適化です。
スマホやSNSの普及により、顧客はひとつの商品を購入するまでに企業と多くの接点を持つようになりました。店舗での体験やサイトでの商品検討だけでなく、アプリ、ネット広告、SNS上で目にする口コミなど、さまざまなチャネルで情報を得ています。また購入後のコミュニケーションおいても、店頭窓口、コールセンター、チャット、アプリなど、顧客によって使用したいチャネルは異なります。
企業は、多様化した消費行動に対応すべく、どの顧客接点においても質の高い顧客体験を提供できるように努力していく必要があります。そのためには、部門ごとの縦割り対応ではなく、「顧客」を主役に据えて、企業・ブランドとして一気通貫したサービス提供が求められます。
4.データ活用によるサービスのパーソナライズ化
4つ目の理由は、データ活用により、サービスのパーソナライズ化が可能になったためです。
スマホなどのオンライン端末を通じて商品の購入が行われることで、顧客がどのサイトで商品を閲覧し、何日の何時ごろ商品を購入したのかなど、詳細な行動データまで入手できるようになりました。
これらのデータを分析する精度も向上したことから、顧客一人ひとりに合わせた内容の顧客体験の提供が可能となり、他社との差別化の鍵として注目されています。
関連記事:パーソナライズとは?重要性とメリット、施策例や注意点までわかりやすく解説
5.顧客による情報発信力の向上
5つ目の理由は、顧客による情報発信力の向上です。
SNSの普及により、商品やサービスについて、顧客が口コミやレビューなどの情報を発信しやすくなりました。感動的な良い体験も悪い体験も、すぐに情報発信することが可能です。顧客自らが情報を発信・拡散してくれる時代だからこそ、シェアしたくなるような「感動的な顧客体験」を提供することが重要です。
顧客体験を測定する指標
顧客体験を測定する指標には、次の2つがあります。
- ネットプロモータースコア(NPS)
- 顧客努力指標(CES)
それぞれの指標について説明します。
NPS(ネットプロモータースコア)
NPSは「自分の友人にこの商品(サービス・企業)をすすめるか?」という質問に対するスコアであり、顧客ロイヤルティ(忠誠度)の度合いを表します。
NPSは、2003年にアメリカのコンサルティング会社であるベイン・アンド・カンパニーのフレッド・ライクヘルドを中心とするチームが開発した指標です。顧客に「この商品・サービスを友人や同僚にすすめる可能性はどのくらいありますか?」という質問に対して、0~10点で回答してもらい、10~9点と回答した顧客を「推奨者」、8~7点を「中立者」、6~0点を「批判者」として3つのセグメントに分類します。推奨者の割合から批判者の割合を引いたものがNPSのスコアとなります。
引用:Bain & Company
推奨者は、単に商品に満足するだけでなく、企業の宣伝をしてくれるようなロイヤルティの高い顧客です。NPSは企業の収益性や業績、成長率とも相関関係があることが調査結果から証明されており、現在、世界各国、様々な業界の1,000社を超える企業で導入されています。
顧客努力指標(CES)
顧客努力指標(Customer Effort Score)は「顧客が商品の購入などの目的を達成するのに要した手間や労力がどれほどだったか」という質問に対するスコアであり、NPS同様に顧客ロイヤルティの度合いを示します。
手間や労力は少ないほど良いので、このスコアは低ければ低いほうが良い結果となります。例えば「問い合わせ先がよくわからなかった」「購入に時間がかかった」など、顧客体験において、顧客が不満を感じるポイントがあると、スコアが高くなります。
不快な要素の存在が明らかになる「顧客努力指標に着目し、顧客体験の各フェーズにおける「努力量」を減らすことで、顧客体験全体の満足度を向上させることができます。
顧客体験を向上させる施策のポイント
顧客体験を向上させる施策を検討するには、次の3つがポイントとなります。
- オムニチャネル化の実現
- 個人化(パーソナライゼーション)
- 自己解決用コンテンツ&最新テクノロジーの活用
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
オムニチャネル化の実現
1つ目のポイントは、オムニチャネル化の実現です。オムニチャネルとは「あらゆる接点」という意味であり、顧客が商品を購入する際、企業とのさまざまな接点が連携していることを指します。
例えば、金融機関であれば、店舗での接客やホームページでの案内、コールセンターでの対応などに一貫性を持たせ、顧客がどの接点で商品の購入を検討しても高いレベルの接客ができるようにするなどの施策があります。
オムニチャネル化を実現することで、顧客はシームレスに取引を検討できる快適さを感じることができますし、企業も、顧客がどこで商品を検討しているかを把握し、その状況に合う顧客体験を提供することができます。
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個人化(パーソナライゼーション)
2つ目のポイントは、個人化(パーソナライゼーション)です。
顧客体験における個人化とは、顧客一人ひとりの行動や人物像に合わせた体験を提供することを指します。属性や購入履歴、サイトの閲覧履歴、購入タイミングなどの顧客のデータを活用し、一人ひとりの顧客体験を最適化します。
<パーソナライズ施策の例>
- パーソナライズド広告
- メールのパーソナライズ化
- SNSのパーソナライズ表示
- パーソナライズDM
- パーソナライズド動画
パーソナライズを活用した施策について詳しくは、以下記事でご紹介しています。
関連記事:パーソナライズとは?重要性とメリット、施策例や注意点までわかりやすく解説
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自己解決用コンテンツ&最新テクノロジーの活用
3つ目のポイントは、自己解決用コンテンツの用意と最新テクノロジーの活用です。
「自己解決用コンテンツ」とは、自分で解決できるコンテンツを指します。またデジタル化が進む中、顧客はサポートセンターなどに問い合わせるなどの手間をかけず、自分で調べて早く解決したいという意識を持っています。たとえばオンライン接客などの最新のテクノロジーを使えば、よりスピーディーな「自己解決」を提供することが可能になります。
<自己解決用コンテンツの例>
- WebサイトにAIによるチャットボットを設置。質問を入力すれば、すぐに回答が得られる
- Webサイトにサービス説明のインタラクティブ動画(触れる動画)を設置。不明点をタップすれば、詳しい解説が見れる
<オンライン接客ツールの例>
コンテンツを「最新の正確な情報に保つ」ことも踏まえ、コンテンツ内容やテクノロジー活用を検討しましょう。
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顧客体験を向上させるためのステップ
最後に、顧客体験を向上させるための5つのステップをご紹介します。
- Step1:ミッションステートメントの浸透
- Step2:カスタマージャーニーマップ・ペルソナの設定
- Step3:課題の抽出
- Step4:仮説検証を繰り返す
- Step5:顧客からフィードバックを得る仕組み作り
以下では、それぞれについて詳しくご説明します。
Step1:ミッションステートメントの浸透
1つ目のステップは、ミッションステートメントの浸透です。
ミッションステートメントとは、企業理念や行動指針といった、企業が従業員と共有する価値観や取り組み姿勢のことを指します。「顧客体験」に対する企業としての価値観や姿勢を従業員に理解してもらえていないと、目標に掲げたとしても従業員の意識がそれぞれ異なり、目標に到達することは難しくなります。
「顧客体験」を向上させるには、組織全員が同じ意識を持つことが、最も重要と言えます。顧客体験を向上させることへのミッションステートメントを策定し、すべての従業員と共有します。従業員が、意識せずともミッションステートメントに従った行動をとれるまでに浸透させましょう。
Step2:カスタマージャーニーマップ・ペルソナの設定
2つ目のステップは、カスタマージャーニーマップとペルソナの設定です。
顧客を代表する“個人”の人物像を「ペルソナ」として細かく設定し、商品やサービスの認知から購入後までの一連の流れをシミュレーションして「カスタマージャーニーマップ」を作ります。カスタマージャーニーマップは、フェーズごとの顧客接点や顧客の関心事・感情などを洗い出し、顧客体験を可視化するのに有効です。
カスタマージャーニーマップやペルソナが明確になると、「どのような方法で情報収集をするか?」「こんなときにどう行動するか?」「このような場面でどのような感情を抱くか?」といった顧客体験の流れをリアルにイメージすることができます。また複数の部署や関係者と共有することで、認識を統一することで、効果的に顧客体験の改善を図れます。
Step3:課題の抽出
3つ目のステップは、課題の抽出です。
顧客満足度調査や、先ほどのNPSやCESなどの調査データ、コールセンターやカスタマーサポートに寄せられた意見などを元に、課題を抽出します。評価や観点は顧客によって異なりますし、データは日々変化していきます。重要なのはスピード感です。できるだけ短期間で課題を抽出し、スピーディーに改善策検討のステップに移るとよいでしょう。
Step4:仮説検証を繰り返す
4つ目のステップは、仮説検証を繰り返すことです。
ステップ3で明確になった課題に対して、改善策を検討します。アイデアを出す場合はすぐに否定せず、どんどん洗い出します。実現が難しそうなアイデアであっても、顧客体験向上のために、部門やチームを超えて連携できる道があるかを探ります。
仮説となる施策をテスト運用し、結果を検証します。顧客の意見や感想を聞いたり、顧客の様子を実際に見たりして、施策の効果を見極めます。仮説・テスト運用・検証のサイクルを、繰り返しましょう。
Step5:顧客からフィードバックを得る仕組み作り
5つ目のステップは、顧客からフィードバックを得る仕組み作りです。
顧客からフィードバックを得ることで、施策の成功有無が確認でき、企業側が気づいていない「顧客の期待」などを確認することができます。フィードバックを依頼するには、アンケートフォームをメールで送る、郵送で送る、直接ヒアリングするなどの方法がありますが、顧客とのさまざまな接点の中で、顧客から評価や意見が自然に集まる仕組みを作りましょう。
<フィードバックを得る仕組みの例>
- ウェビナーの終了前にチャット欄でアンケートURLを表示し、「回答者には資料プレゼント」と伝えて回答を依頼する
- チャットでの問い合わせが解決した直後に、そのチャット上で対応に関するNPSアンケートを送る
何よりも大切なのは「顧客理解」です。フィードバックを元に、顧客体験向上のためのPDCAサイクルを回し続けましょう。
まとめ
今回は、顧客体験の意味や、顧客体験向上のポイントなどについて解説しました。スマホやSNSの普及により、顧客との接点が多様化し、それに伴いデータを顧客体験の向上に活用できるようにもなりました。顧客体験の向上は、今後ますます企業の重要なミッションになっていくことでしょう。ご紹介した中で、まだ取り組んでいないポイントがあれば、ぜひ実践してみてください。
執筆者
黒谷 純子
MIL株式会社 マーケティング
大学卒業後、編集プロダクション等を経て、人材サービス企業のマーケティング職に従事。2021年3月よりMIL株式会社に入社し、現在は自社サイトやMILblogの企画・ディレクション・執筆等を担当している。
Twitter : https://twitter.com/MIL29292841