近年、企業から顧客へのコミュニケーション手段として「パーソナライズDM」が活用されるようになりました。どの顧客にも同じ内容の送付物を一斉に郵送する従来型のDMとは違い、「パーソナライズDM」は顧客一人ひとりに合わせて送る、戦略的なDMです。
当記事では「パーソナライズDM」とはどのような手法なのか、またそのメリットや実施方法、成功のポイントについて、わかりやすく解説していきます。
パーソナライズDMとは
「パーソナライズ(personalize)」には、英語で「個人に合わせて作り変えること」という意味があります。そして「パーソナライズDM」とは、顧客一人ひとりの属性や行動履歴、関心や好みに合う商品を最適なタイミングで発送する、オーダーメイドのようなDMを指します。
関連記事:パーソナライズとは?重要性とメリット、施策例や注意点までわかりやすく解説
従来のDMとの違い
パーソナライズDMと従来のDMとの違いは、内容と発送タイミングです。
従来のDMは、同一の顧客セグメントに対しては、全て同一の内容のDMを同じタイミングで送付します。一方、パーソナライズDMは、同じセグメント内の顧客であっても、異なる内容のDMを異なるタイミングで送付します。
例えば、リピーターというセグメントでも、次のようにさまざまな顧客が存在しますので、「購入回数が5回以下の顧客にはAパターン」「購入回数が6回以上の顧客にはBパターン」などと異なる内容にします。
従来、郵送DMは開封率が高く効果的であるものの、デジタルDM(メルマガ)と比べるとコストが高く費用対効果に課題がありました。パーソナライズDMは、顧客の属性や購入履歴などのデータを活かして、顧客毎に最適なタイミングで最適な内容のDMを郵送することで、費用対効果の向上を狙う手法であるといえます。
関連記事:ダイレクトメール(DM)の効果はどれくらい?開封率、反応率を上げる方法も解説
パーソナライズDMの効果的な可変項目
パーソナライズDMを作成するにあたって欠かせないのが、可変項目のあるバリアブル(可変)印刷という印刷技術です。
これは、一つのテンプレートの中で、変えることのできる部分を設定したものです。例えば、「〇〇様」といった宛名や「商品Aを〇〇%オフでご利用いただけます」といったオファー内容の文字情報や、全体の色合いやデザインなどです。以下のような情報を、送りたいセグメントに合わせて可変項目にすると効果的です。
氏名、会員番号、累計ポイント、誕生月など<商品・サービスの情報>
過去の購入・利用データを反映<オファー>
顧客ランク・累計購入金額・累計利用回数などを反映<QRコード/URL>
属性別にリンク先のLPや動画の内容を変える
※視聴者一人ひとりに対して自動で最適化する「パーソナライズド動画」へのリンクも
DMからさらにコミュニケーションを深める手段として効果的です。<デザイン>
性別・年代や購入商品などに合わせて、画像や色をアレンジする
バリアブル印刷を使えば、同じテンプレートを使って少しずつ異なる内容のDMを作成することが可能です。
パーソナライズDMの例
例えば、通販会社の施策として「カート落ちDM」が考えられます。
ECサイトにおいて、商品をカートに入れたままで購入せずサイトを離脱した顧客宛に、その商品情報をDM化して郵送し、コンバージョン率(DMからの購入・問い合わせなど)を向上させるという施策です。多くの顧客の中で、カート落ちしている顧客だけを抽出してDM化するという、パーソナライズDMの戦略的な使い方のひとつです。
パーソナライズDMのメリット、効果
パーソナライズDMは、主に2つのメリットがあります。
- 訴求力の高さ
- 顧客ロイヤルティの向上
それぞれについて、解説していきます。
訴求力が高い
第一のメリットは、顧客への訴求力の高さです。
「DMメディア実態調査 2019」によると、回答者全体のうち67.3%が「誕生日などに関係したサービスの提供」や「「最近購入した商品関連 のクーポン」など何らかのパーソナライズを経験していると回答しました。また「一般的な DM と比べて、パーソナライズされたタイプのほうを開封・閲読してみたい気持ちがある」と回答したのは 45.3%、「ない」と回答したのは18.6%であり、パーソナライズされたタイプの DM の方が従来型DMよりも訴求力が高い傾向となりました。
「自分好みのデザイン・内容」で「自分にとって良いタイミング」で送られるパーソナライズDMは、開封率やレスポンス率の向上が期待できるとわかります。
顧客ロイヤルティの向上
第二のメリットは、顧客ロイヤルティの向上が期待できることです。顧客ロイヤルティとは、企業の商品やサービスへ寄せられる、顧客からの信頼や愛着を指します。ロイヤルティ(忠誠心)が向上するほどに、企業やブランドの熱心なファンとなり、リピート購入や口コミによる新規顧客獲得など、売上向上にもつながります。
パーソナライズDMであれば「多くの顧客の中から選ばれたあなたへ、メッセージを送っている」という特別感の演出が可能です。例えば「お取引が〇年以上で資産〇〇万円以上をお預けいただいているお客様は、ゴールドステージとなります。このステージの方は特別に、〇〇の手数料が無料です」というように、具体的なメリットに加え、企業にとって大切なお客様であるというメッセージを伝えます。
サービスや商品に満足している上に「企業から大切な顧客だと認められている」という特別感を感じさせることができれば、顧客はさらに企業に愛着を感じるようになるでしょう。
パーソナライズDM実施の5ステップ
以下では、パーソナライズDMの施策を実施する手順を、5ステップでご紹介します。
手順を一つずつご説明していきます。
1.顧客データの分析
まず、パーソナライズDMの実施により、どのような目的を達成したいか、どんな成果を上げたいかを決めます。例えば、「リピート顧客に購入や取引を促したい」「新規顧客を紹介してもらいたい」といった内容です。
そのためには顧客データを分析し、どの顧客セグメントの、どのような顧客をターゲットとするのかを決めます。顧客属性(年齢、性別、職業、居住地)や行動履歴(購入回数、問い合わせや資料請求)、趣味嗜好(使用するメディア、趣味、好み)などを分析し、どのような顧客にどんなオファーをすることで目的を達成するかを決めていきましょう。
2.シナリオ設計
次に、目的を達成するためのシナリオを設計します。シナリオとは、DMを発送する顧客の条件設定や、DMの形式、発送タイミングなどの決定といった一連の流れのことです。例えば、顧客がいくら以上の定期預金を解約した後、1ヶ月後に一度メールを送信し、その後反応がなければDMを送付する、といった流れです。
設計したシナリオに沿って、DMの形式はハガキか封筒か、可変項目はどこにするか、発送のタイミングはいつにするか、といった具体的な要素を決めていきます。こちらの記事で効果的なダイレクトメール(DM)の書き方や例文をご紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
3.デザイン
目的やシナリオが決まったら、DMの制作に入ります。
送付する顧客データやDMの本文、必要な画像やイラスト、QRコード、同封物などを揃え、可変項目の設定を行います。そして、顧客の好みに合わせた色や模様、フォント、文字の大きさなどをデザインし、DMを完成させます。
4.印刷、発送
DMが完成したら印刷作業を行い、顧客宛に発送します。
DM制作会社、印刷会社など、さまざまな専門業者が印刷や発送を請け負っています。印刷・発送プラスアルファのサービス、例えば、「顧客が購入者リストに掲載されたら、24時間後にDMを発送する」「メルマガを配信解除したら、〇日後にDMを発送する」というように、顧客の行動をトリガー(引き金、きっかけ)として自動的にパーソナライズDMを発送する「ユーザートリガーDM」を扱う業者もあります。自社に合った業者を選定しましょう。
5.効果測定
発想後は、効果測定を行います。DMによって顧客が行動を起こしたかどうか、シナリオで想定した通りの行動であったか、顧客の行動によって目的は達成されたか、といった効果を測定します。
効果測定を行うことで、今後のDM施策に活かすことができますし、もしまだ現状のパーソナライズDM施策が続行中であれば、改善策を反映させることもできます。実施したシナリオは必ず効果測定を行い、分析しましょう。
効果測定の方法として、以下のような施策があります。
- ハガキやクーポンコードで割引やプレゼントと引き換えする
- 専用URL・QRコードの利用
- 申込番号を申告してもらう
ステップ2の「シナリオ設計」で、あらじめ効果測定の方法も考えておきましょう。
パーソナライズDMの成功のポイント
パーソナライズDM施策を成功させるためには、3つのポイントがあります。
- ターゲット、発送タイミングを精査する
- 外部のリソースを活用する
それぞれについて、ご説明します。
ターゲット、発送タイミングを精査する
送付対象となるターゲットや、シナリオ設計におけるDM発送のタイミングを十分に精査しましょう。
パーソナライズDMは、一度に出状する数や内容によっては、郵便局の「広告郵便物の条件」を満たさないため割引が適用されず、従来型のDMよりもコストがかかる場合もあります。
コストをかける分、効果が期待できるターゲットを選定しているか、ベストな発送タイミングにしているかを十分に確認しましょう。
自社に合った「外部のリソース」を活用する
対象の顧客数や、パーソナライズDMのシナリオによっては、システム担当者やデザイナーなど、多くのスタッフが必要になる場合があります。業者によっては、シナリオ設計から効果測定まで、必要な業務を請け負っていますので、自社に合わせた業者を選定しましょう。
専門業者の選び方としては、どんな強みがあるのか(デザインが自社の業界向きである、特殊印刷が可能、従来型のDMと包括的に依頼できるなど)、個人情報の扱いなどセキュリティについて対策をしているか・自社の求める基準を満たすかなどに留意してみましょう。
まとめ
パーソナライズDMのメリットや実施手順、成功のポイントについてご紹介しました。
顧客に合わせた内容で、タイミング良く送付するパーソナライズDMは、可変DMを使用したり、送付タイミングを精査したりと従来型DMよりも手間はかかりますが、従来型のDMよりもコンバージョン率などに大きな効果が期待できます。
社内でDMの制作や発送を完結することが難しい場合は、外部のリソースを活用し、専門のスタッフと共に取り組むのがよいでしょう。ぜひ、戦略的にパーソナライズDMに取り組んでみてください。
執筆者
黒谷 純子
MIL株式会社 マーケティング
大学卒業後、編集プロダクション等を経て、人材サービス企業のマーケティング職に従事。2021年3月よりMIL株式会社に入社し、現在は自社サイトやMILblogの企画・ディレクション・執筆等を担当している。
Twitter : https://twitter.com/MIL29292841