コロナが明けて、新卒採用市場では優秀な人材の争奪戦は激化。採用活動のさらなる早期化が進んでいます。また長期化する採用活動の中で入社まで学生とつながり続けるために、通年で就活生が必要としているコンテンツを生み出し続ける必要が生まれ、企業による情報発信力は一層求められるようになっています。改めて、学生とのより効果的なコミュニケーション手法を検討している企業も多いのではないでしょうか?
本記事ではデジタル時代の採用活動に不可欠な「採用動画」の効果とメリットをご紹介。さらに目的別に「効果的な採用動画事例」をピックアップし、動画のプロがポイントを解説します。
採用動画の浸透
「採用動画」とは、企業の魅力や社員の雰囲気などを学生に伝える、採用領域の動画手法です。スマートフォンの普及と通信の高速化、さらに新型コロナウイルスの影響で加速したデジタル化により、Webにおける動画視聴が急速に伸びた昨今、企業が学生に対して採用動画を活用することも一般的になりました。
Candee社の採用動画に関する調査によると、6割以上の企業が採用活動に「動画」を活用しています。
またPROOX社の2019年調査では、7割を超える学生が「採用動画を視聴したことがある」と回答しています。同社が前年に実施したインタビューでは、「視聴したことがある」と回答した学生が約50%であったため、採用動画の視聴経験がある学生は前年比+20%増加しています。
学生にとっても、就職活動の際に「採用動画を視聴する」という文化が、十分に根付いてきていることが分かります。
採用動画の3大効果
それでは、採用動画にはどのような効果があるのでしょうか?以下3点に分けて、解説していきます。
- 認知拡大
- 企業理解による応募促進
- 内定辞退の軽減・ミスマッチ防止
効果1.認知拡大
採用動画による効果の1点目は、認知拡大です。
コロナ禍により一時下がった大卒求人倍率は徐々に戻り、2024年卒の大卒求人倍率は1.71倍。2023年卒の1.58倍から0.13ポイント上昇しました。2019年度の最大値には及ばずとも、コロナ禍前水準の売り手市場に戻っているといえます。
少子高齢化が進む今、採用企業側としては、より多くの就活生に認知してもらい、応募したいと思ってもらえるような企業イメージを形成することが引き続き重要となっています。
動画は静止画やテキストと比べて短時間で多くの情報を伝えられるため、「認知獲得」のフェーズに最適です。さらに動的な表現や音を用いることで、数秒程度の超短尺動画でも、商品・サービスについての情報を印象深く残すことができます。
以下は「静止画のバナー広告」と「動画広告」の比較調査結果です。
引用:株式会社電通・株式会社ディーツー コミュニケーションズ「iPhone向け動画広告効果調査」
アンケート対象者にバナー広告・動画広告それぞれに対する認知状況を確認したところ、「確かに見た」と強い想起を示したのは、バナー広告8.9%に対して動画広告は14.7%と約1.65倍にもなりました。動画は静止画よりも、印象に残りやすいことが調査結果からわかります。
採用活動においても、学生が情報収集や応募のアクションをおこすときに、自社を想起してもらえるかは重要であるといえるでしょう。
効果2.企業理解による応募促進
採用動画による効果の2点目は、企業理解による応募促進です。
PROOX社のアンケートで約7割の学生が「採用動画によって志望度が上がった」と回答しています。動画は文字・静止画のみのコンテンツと比較して、情報量が多いため、正しく活用することで学生の志望度向上・アクション促進が期待できます。
応募から選考フェーズの課題解消のためには「会社の情報をどのように伝えていくか?」が肝になると考えられます。「学生が必要とする情報」を明確にして、理解を深め、応募のアクションを促す動画を制作しましょう。例えば、会社説明動画やインターンシップの疑似体験動画を提供して、接点をもった学生に企業や事業の理解を深めてもらい、意思をもった上で選考へと進んでもらうことが大切です。
効果3.内定辞退の軽減・ミスマッチ防止
採用動画による効果の3点目は、内定辞退の軽減です。
最終面接後、内定を出す学生にどのような情報をインストールすれば、お互いに満足のいく形で内定承諾まで進めるのか?ボトルネックに沿いながら、情報を出し分けていくことが非常に重要です。
内定後のコミュニケーションとして動画を活用することで、学生により深い企業理解や共感を促せます。
以下の調査でも「動画活用により正しく企業を理解してもらうことで、内定承諾率や選考通過率が向上した」「途中辞退率の低下につながった」と回答する企業が多く、動画の効果が読み取れます。
またこれは、入社後の離職防止にもつながります。人材難の中、多額のコストを費やして採用した人材の3人に1人が3年以内に辞めてしまうのが現状です。貴重な新入社員に、入社後すぐに辞められてしまうようなミスマッチを減らすためには、動画活用による企業理解の促進が必要になります。
企業とのマッチングという意味で、事前にふるい分けができるのも動画ならではの効果です。
採用動画を活用する3つのメリット
続いて、採用動画を活用することで期待できる主なメリットとして、以下の3点を解説します。
- 定性的な情報の伝達・理解
- 学生の情報収集ニーズに合致
- 学生と企業双方の効率化
メリット1.定性的な情報の伝達・理解
採用動画を活用するメリットの1点目は、学生が就職活動時に求めている「定性的な情報」の伝達に適していることです。就活生が必要としている情報を提供するためには、就活生が何を企業の魅力として捉えているかを把握し、企業としての魅力の有無を判断できるようなコンテンツを発信する必要があります。
一位「社内の雰囲気が良い」、二位「給与、待遇がいい」・働き方について気になるのはどのようなポイントですか?
一位「どのような社員が働いているか」、二位「時間労働やサービス残業があるか」
上記のアンケート結果からは「給与や待遇について」や「時間労働やサービス残業の有無」といった定量的に表現できる情報を上回り、「社内の雰囲気」や「働いている社員」といった「定性的な情報」が学生の興味の的になっています。
視聴覚情報を通じて多角的に情報を訴求できる動画は「1分間の動画は180万語の価値がある」といわれており、雰囲気やカルチャーなど非言語情報を伝えやすいという特徴があります。テキストや静止画のみでは、社員や社内の雰囲気など定性的な情報の表現は難しく、「動画」が適しているでしょう。
PROOX社のアンケート調査によると、最も印象に残っている動画コンテンツは「社員インタビュー」とのこと。定性的な情報へのニーズの高さが読み取れます。
メリット2.学生の情報収集ニーズに合致
2021年に行われたPROOX社のアンケート調査によると、約9割の学生が「採用動画があった方がいい」と回答しており、採用動画のニーズは明らかに高いことが数字から見て取れます。
当調査では「就活生に動画の必要性を問う設問では、働くイメージが湧きやすいなどの理由だけでなく、就職活動に割く時間を短縮するために動画を活用してほしいという回答が多数見られました。また地方の就活生にとって、Web上配信される説明会動画は高い需要があると言えます。」と分析されています。
テキストや画像に比べ、動画は短時間で取得できる情報量が多く、企業の様子をより正確に知ることができるため、学生の情報収集手段として好まれていることが分かります。
約7割の企業が採用動画を自社採用サイトに掲載。次いでマイナビ、リクナビといったナビ媒体への掲載は66.7%、YouTubeでの公開は52.2%となっています。
採用サイト・求人サイトを中心に、YouTube、SNS、説明会、候補者への送付、動画広告など、幅広いチャネルにおいて採用動画が不可欠になっている様子がと伺えます。
メリット3.学生と企業双方の効率化
採用動画を活用するメリットの3点目は、学生と企業双方の時間・コスト面での効率化です。
前述したことを踏まえると、就活生はテキストや静止画ではわからない「定性的な情報」を企業選びに際して必要としているといえます。しかしこうした情報を得るためには各企業の説明会への参加やOB・OG訪問など、時間とお金がかかるオフラインの方法を取らなければなりません。特に開催地から遠方に住んでいる就活生の負担は非常に大きなものになります。
また当然企業側も、エントリーシートのチェックや説明会準備など就活生への対応にかかる時間とお金のコストが極めて大きく、更に採用活動が長期化している現在は、通年での対応が必要になっているため、従来よりも採用コストが増加しています。
採用動画を制作し、ホームページやYouTubeから視聴可能にするだけで、社内の雰囲気や社員の様子といったオフラインでなければ伝わりづらかった定性的な情報を、より多くの学生に伝えることができます。就活生も時間とお金のコストをかけずに必要な情報を得ることができるようになるため、採用動画は双方にとってのコストを削減しながらも高いパフォーマンスが期待できるソリューションであるといえるでしょう。
目的別!採用動画の効果的な活用事例5選
以下では、実際の企業の事例を用いて、効果的な活用法をご紹介します。
- 認知向上
- 会社説明
- 先輩インタビュー
- オフィス見学
- 1Dayインターン
認知向上|RADIX
RADIX社では、誰もが興味を持つ「待遇の良さ(高給、休みが多い)」という条件面にフォーカスし、多くの人の目に止まるYouTube上で広告配信をして認知向上を図りました。
本採用動画の秀逸なポイントは、「動画の目的を明確にし、伝える内容と配信メディアを最適化」していることです。
いわゆるBtoB企業である同社ですが、BtoB企業はあまり一般に認知されていない傾向にあり、採用活動時にはどうしても認知獲得から行う必要があります。そこで本採用動画では、伝える内容と配信メディアを認知獲得に特化しています。
動画上でテンポよくメリットを伝え、サムネイルもYouTube特有のインパクトあるデザインで制作するなど、配信先に合わせたクリエイティブになっています。動画を見た多くの就活生が企業名で検索、もしくは概要欄から採用ページに遷移したのではないでしょうか。
会社説明|LINEヤフー
LINEヤフーでは、会社説明会をオンラインでライブ配信した後、動画の一部をアーカイブ化してYouTubeチャンネルに掲載しています。
説明会動画をYouTube上に公開することにより、企業が気になった学生はいつでもどこでも説明会を視聴することができます。この動画の他、職種ごとの説明会やコーディングテストの解説などもYouTubeに掲載されています。
オープニング動画が斬新で、他企業にありがちな説明会のアーカイブ動画とは一線を画しており、ブランディングにも配慮していることが伝わります。
先輩インタビュー| DNPコミュニケーションデザイン
先輩インタビューは採用動画の鉄板コンテンツですが、DNPコミュニケ―ションデザインの採用動画は、視聴者が見たい部分を選べる「インタラクティブ動画(触れる動画)」になっている点がポイントです。
異なる部署と入社年の社員2名から1人を選択する分岐から始まり、「平日・休日の過ごし方」「入社前・入社後の会社の印象」などのエピソードを就活生が二択から選び、選択に応じてストーリーが展開します。その他にも後方の別社員をタップすることでその社員の詳細が表示されたり、資料をタップすることでその資料の詳細ページがポップアップで表示されたりと、就活生は知りたい情報を自ら選んで、効率よく獲得できます。
インタラクティブ動画では、視聴者は動画に能動的にタップして情報を引き出しているので、従来の動画を一方的に見ているだけよりも、強い印象を残すことが可能です。また、企画が面白い動画はシェアされる可能性も高まるので、企業カルチャーを伝えるだけではなく、PR効果も期待できるでしょう。
オフィス見学(疑似体験)|明治安田生命
リアルでの企業説明会やオフィス見学が難しいコロナ禍に制作し、採用サイト内に掲載された「オフィス見学動画」です。
明治安田生命のオフィス内の様子や働き方について、組織・職務別に案内するインタラクティブ動画になっており、就活生はニーズに応じて情報を選び取ることができます。
今回のオフィス見学動画では、「丸の内オフィス」「東横町オフィス」の2つのオフィスを紹介しており、「執務室」から「食堂」までと、オフィス内の様々な場所を見学することができます。実際に足を運ぶ必要のない「オンライン見学」だからこそ、時間や人数の制約がなく、企業・学生ともに気軽に複数のオフィス見学が可能になっている点が特徴です。
通常の動画のように、誰にでも同じ内容を一方的に見せるのではなく、視聴者の興味に合わせて双方向的に見せることで、動画は非常に高い視聴維持率を記録しました。
1Dayインターン(疑似体験)|PHC
PHC社の制作した、インターンを疑似体験できるインタラクティブ動画です。
一人称視点でストーリーが展開し、動画内で主人公が起こすアクションを学生に選択してもらうことで、 PHC様の企業文化や環境を “体感”できる構成になっています。
動画内に登場する社員をタップするとポップアップで社員の情報が表示されたり、視聴完了後に表示される終了画面にエントリーページへのリンクボタンが設置されているなど、採用動画に最適なギミックが多く仕掛けられています。
まとめ
採用活動に動画を活用する効果やメリットについて、ご理解いただけましたでしょうか?
既存の課題に加え就活市場の変化により、常に就活生の求める情報を提供し続けることのできる採用動画のニーズは高まってきています。今回ご紹介した事例のように、採用動画を「インタラクティブ化」することで、更に効果的に採用動画を活用することができます。「学生に選ばれる企業」になるための新たな施策として、ぜひご検討ください。
執筆者
田中
MIL株式会社 クリエイティブグループ エディター
1997年生まれ、神奈川県出身。大学在学中にインターンとしてMIL株式会社にジョインし、2020年12月に入社。インタラクティブ動画を専門とした制作経験を活かし、クリエイティブグループでは主に、インタラクティブ動画特有のUIデザインや映像編集を担当する。